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■『戦旗』1651号(2月5日)5-6面 技能実習制度の廃止、 外国人労働者の人権を守る闘いの強化を 村上 哲 社会問題となって久しい技能実習制度。今でも労働組合、市民団体には、未払い賃金や長時間労働などの労働関係法令違反や様々な人権侵害を訴える外国人技能実習生からの相談がひっきりなしに寄せられている。これまで、法務省、厚労省などの関係省庁や外国人技能実習機構(OTIT)は、幾度となく「技能実習制度運用要領」を改訂したり、人権侵害行為について注意喚起を促してきたが、いずれも解決には程遠い状況が続いている。 そもそも外国人技能実習制度の人づくりによる国際貢献という目的と人手不足を補う労働力の確保という実態が乖離しているという根本的な問題に手を付けなかったからこそ、技能実習生に対する労働問題、ハラスメントなどの人権侵害は、減ることはなく増える一方の状態にある。 ●1 有識者会議「最終報告書」は、まったくのまやかしだ 一昨年二月に古川法務大臣(当時)は「特定技能制度・技能実習制度に係る勉強会を開催、以降技能実習制度の見直し論議が活発となった。この法務大臣の私的勉強会を受けて、「両制度の施行状況を検証し、課題を洗い出した上で、外国人材を適正に受け入れる方策を検討し、関係閣僚会議に対して意見を述べることを目的」とした「技能実習制度及び特定技能制度のあり方に関する有識者会議(以下、「有識者会議」)」が開催された。有識者会議は、一昨年一二月一四日から会議が始まり、これまで一六回の会議が行われた。また、支援団体、監理団体などの関係者からのヒヤリングも行われた。昨年の五月一一日には中間報告書が公表され、一一月二四日に最終報告書が公表された。最終報告書の内容は、「技能実習制度の見直し」とは程遠く、欺瞞的なものだ。労働者の権利保護の立場から言っても、きわめて危険な内容をはらんでする。 第一の問題点は、昨年五月の中間報告では、「現行の技能実習制度は廃止」としていたものを、最終報告書では、「現行の技能実習制度を発展的に解消し、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度を創設」するとしたことにある。このことは、「経済財政運営と改革の基本方針」(二〇二三年六月一六日閣議決定)の「現行の技能実習制度を実態に即して発展的に解消して人材確保と人材育成を目的とした新たな制度を創設するとともに、特定技能制度は、制度を見直して適正化を図った上で引き続き活用していくなどの方向で検討する」という岸田政権の意向が大きく働いたといえる。 技能実習制度の抜本的な見直しとは程遠く、現行技能実習制度の「人づくりによる国際貢献」という目的を、「人材育成」という看板に付け替えたに過ぎない。結局のところ、岸田政権の政策は、外国人労働者を正面からではなくサイドドアから受け入れ、当面する労働者不足を補おうとする弥縫策でしかない。新制度において「人材育成」を目的とすることは、現行制度と同様に目的と実態の乖離を生み出し、数々の人権侵害、奴隷労働構造を解決することはできない。 第二の問題点は、「転籍の在り方」についてである。最終報告書では、「『やむを得ない事情がある場合』の転籍の範囲を拡大・明確化し、手続きを柔軟化」、そして同一機関での一年以上の就労・技能検定試験基礎級・日本語能力試験(N5)合格などを条件に「本人の意向による転籍も認める」としている。しかしながら一方で「本人意向による転籍要件に関する就労期間について、当分の間、分野によって一年を超える期間の設定を認めるなど、必要な経過処置を設けることを検討」するとしている。これは、様々な条件を付け、事実上転籍を困難にするものだ。そもそも現行技能実習制度で転籍制限を課し三年間同一の事業所に拘束していたことが労働者の権利を奪い、数々の人権侵害の温床になっていたのだ。また、転籍を困難にすれば、「安価な労働力」を安定的に確保できることになる。現行制度と何ら変わらず、技能実習制度の奴隷構造は新制度になっても踏襲されることになる。そもそも、転籍の自由は労働者の基本的な権利であり、労働者に転籍制限を課すべきではない。 第三の問題点は、「監理・支援・保護の在り方」では、外国人技能実習機構(OTIT)を改組し、受け入れ事業所に対する監督指導機能、外国人労働者に対する転籍支援や相談援助業務を強化する、としている。しかし、現行制度においても転籍支援、相談援助は行っているが、きわめて不十分で技能実習生からの信頼も得られていない。そうした事情も検討されずにただただ「強化する」では、それらの実効性は疑わしい。また、「監理団体の許可要件等厳格化」しつつも監理団体を排除するのではなく、「国際的なマッチング機能」を担わせていることだ。現状の「国際的なマッチング機能」こそが債務労働の原因になっているのだ。監理団体が、送り出し機関にキックバックを要求している例は、多数見受けられる。また、監理団体は、技能実習生配属時の初期費用、毎月の監理費を受け入れ亊業所から徴収している。このことが低賃金の温床にもなっているのだ。民間団体である監理団体に「国際的なマッチング」を担わせることは間違いである。 他にも、新制度においても短期ローテンション型であること、特定技能2号以外は家族帯同が認められていないことなど、現行制度の本質と何ら変わることなく「最終報告書」が求める新制度は、看板の掛け替えにすぎない。 ●2 技能実習制度廃止のために力を尽くそう 二〇二三年六月末現在、技能実習は、九〇職種一六五作業、約三六万人、特定技能1号は、一二業種、約一八万人、特定技能2号は、建設、造船・舶用工業のみで一二人(建設のみ)。これだけの技能実習生、特定技能労働者が建設や介護、食品加工などの現場で働いている。もはや、外国人労働者を抜きに日本社会は成り立たなくなっているといっても過言ではない。みな共に暮らし、働く仲間たちである。 ところが現状は、数々の人権侵害が横行しているのだ。相談事例からみると、「とび職」「型枠大工」などの建設に従事する技能実習生からの相談の多くは、日本人社員による暴言、暴行事案であったり、「日本語ができない、作業指示に従わない」として解雇する亊案が多発している。事業所の規模も小さく、なかには日本人社員と技能実習生が同数程度の事業所もある。こうした規模の事業所では、労使の力関係は圧倒的に使用者側が強く、その下に技能実習生が位置している構造がある。「技術の移転」とは程遠く、作業内容も十分教えられず、ひたすら指示に従うことを強要される現実がある。劣悪で危険な労働環境、低賃金、長時間労働のなかで暴言、暴行も日常化しているといえる。 そこには、技能実習生の人権が軽んじられ、対等な労使関係もなく、人間としての尊厳が踏みにじられている現状を見過ごす人権意識の希薄さ、アジアの人々に対する差別感情がにじみ出てきている。技能実習生にまつわる現実は、日本社会の現実を反映したものである。その意味では、日本社会の問題であり、私たち自身が解決すべき課題でもある。 労働組合、労働運動として技能実習生問題は大切な課題として取り組んでいかなくてはならない。 有識者会議による「最終報告書」は全くのまやかしであって、到底受け入れることは出来ない。債務労働、奴隷労働を排除し、労働者の基本的権利、労使対等原則が担保されなくてはならない。技能実習生、特定技能労働者とともに「最終報告書」批判の声を挙げ、技能実習制度を廃止に追い込もう。そのために力を尽くしていこう。 |
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